毎日変わらぬ日々が流れている。
ここは「普通」の世界。
みんな同じように生活して同じような幸せを掴む。
でもそんな世界に、私は飽き飽きしているのだ。
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私には夢がある。
...お金持ちになりたいとか、有名になりたいとかそんなのじゃない。
私は歌を歌いたい。絵を描きたい。
好きなことをして、最低限稼げればいい。
でも自分のやりたいことはこの世の中の「普通」には収まらない。
むしろ歌を歌うことに関しては職業として目指す人はあまりいないと思う。
『きっと無理だろう』
みんなも、私も、そう思っていた。
諦めていた。
今日も私は机に向かい勉学に励む。
無難な暮らしをするために。
......そんな日々が過ぎていく。
その日は、雨の日だった。
雨にも関わらずふと外に出たくなった。
透明なビニール傘を持ち、歩きながら歌を口ずさんでいた。
「君は、歌が好きなの?」
声がした。
振り向くと、白髪の少し幼い少女。
とても不思議な子で、なんだか雰囲気がふわふわしている。
見慣れない触角のようなものが頭に着いている。
...たぶんヘアアクセサリーだろう。
いつか、溶けて消えてしまいそうな......
興味がありそうな顔をしてこちらに近づいてきた。
「...そうだよ。歌を歌うのが大好き。」
「大好きな歌を歌っているのに、どうしてそんなに悲しい顔をしてるの?」
少女は隣に来て顔を覗き込んでくる。疑問と心配の目だった。悲しい顔をしていたのには自分でも気が付かなかった。
「...みんな分かってくれないんだ。歌で生きていくだなんて、上手く行きっこないから無難な道を進めって。」
今出会ったばっかりの少女に言ってもどうにもならないことくらいわかっている。だが、普段からの気持ちが溢れてしまった。
その少女は私に言う。
「...君と出会えたのも必然な気がするからね。いいよ。あなたには特別に、勇気をあげる。君の夢を叶えるお手伝いをしてあげる!」
必然についてもお手伝いについても、突然なにを言っているのかわからなかった。でも明るい笑顔の少女のおかげで不思議となんとかなる気がしてきた。
「...ありがとう。でもどうやって?」
私の夢を叶える方法なんてあるのだろうか。普通の努力でも叶うはずがないのに。
「じゃあ、例え話をしよう。雨が降れば虹がかかるよね?」
「うん...でも、なにか関係があるの?」
「でもそれ雨じゃ勿体なくない?」
「え...?どういうこと?」
私は首を傾げる。
「だから、私の魔法で飴を降らよう!!この世界を自分色にしちゃうんだ!!」
一瞬眩い光が少女から放たれたと思うと、空からどんどん飴が降ってくる。
持っていた傘にごつごつ当たっていく。
「なに?なに!?え!?何があったの!?」
手に取ってみると、本当に飴玉らしい。
どうしよう。空から「飴」が降ってる。
この少女は一体何者なのだ。私はすっかりこの世界に魅了されていた。
「ほら、飴が降ったらキラキラだよ!みてみて〜あそこの虹!飴のはんしゃ?で虹ももーっときれいにみえるよ!みんなが雨なら、君はこの世界の飴なんだ。だから君が変われば、この世界はキラキラなんだよ!」
少女ははしゃいで、笑って見せた。
私が変われば...か......。
雨が飴になって虹までもがもっと魅力的になったように、私にも世界を変える力はあるのかな......
...当たるとちょっと痛いけど。
「これは...夢なの...?」
飴の降る不思議な空を眺めながら少女に聞く。
「......夢だと思えば夢、現実だと思えば現実だよ。君次第。」
「...夢...か......」
と呟き隣を見ると、少女はもう居なかった。
私のビニール傘は、七色で彩られていた。
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あの不思議な体験があってから、私はゆっくり夢へと進み始めることが出来た。
だが、問題はここからだった。
私が歌と絵の道を進もうとしている事を、親に知られた。
猛反対され大喧嘩してしまったのだ。
やっぱり、私の親は人並外れたことを好まない。
私が将来困らないように、安全な道を進んで欲しいと思っているのだろう。
そういったことにお金を使うのも理解できないというのだ。
未来に希望を持つことは尊いこと。
だが世の中とは非情なもので、夢を見る子供は諦めを促されそのまま生きては行けない。
もうだめなのかな。
夜、あの時のように散歩しながらそんなことを考えていたら、丘の上に来てしまっていた。
草原の上に座って考える。
やめた方がいいのかな...
歌を歌うことも
絵を描く事も......
「いやいやいや!そうはいかないでしょ!」
「でも...みんなは......」
「まだまだやりたいこと、あるんでしょ?」
そこで声に気づき、前と同じように振り向く。少女だ。微笑んでいる。
「あれっ......あの時の...」
「うん...。」
少女は隣に来て座る。
「あのね、私の思いを...君に聞いて欲しくて...。〜♪」
少女はふと歌い始める。透き通った声で、でも力強くて。私に訴えかけるようで。
「わぁ......」
やっぱりこの子は不思議な子だ。
「君は本当は、こんな風に歌えるはずなんだよ...ね?見て...」
少女ははにかみながら笑った。
少女が片手を開くと、金平糖が空に散らばる。
「星だ......天の川みたい...」
私はまたしても、この子の創る世界に魅了されていた。
「君は本当は、こんな素敵な絵が描けるんだよ...」
...ん?
「...絵を描くのが好きだって、言ったっけ?」
「平凡だったら、埋もれちゃうの。」
話を逸らされた。
「埋もれてみんなと同じになるより、君は君らしくいた方が絶対にいいんだ。」
「でも...でも!私の夢のせいでみんなと喧嘩する。みんなに馬鹿にされる...」
気がつくと大きな声で叫んでいた。
少女は真剣な顔をしている。
「大丈夫、言わなくても全部わかってるよ...。」
不意に、少女の腕が私の頭へ伸びてくる。私は頭を半ば強制的に少女の方へ向けさせられ、見つめ合う体勢となった。
「周りが怖いなら私の声を聞いて。私だけ見ればいいんだ!私だけを信じれば...」
その手で頭や頬を撫でられる。
自分より小さな手のはずなのに優しく包み込まれるようで、涙が溢れてくる。
指で涙を拭ってくれるけど、さらに溢れてきてしまう。
「虹色の...メロディを...描くんだよ......君ならできるよ...私と一緒ならきっと...」
少女は左手で私の頬に触れたまま、右手を空にかざした。
「このミルキーウェイみたいに、1つ1つ輝くからこそ、その輝きは大きくなり、何よりも素晴らしいものになるんだよ...ほら、あの空の1粒も、ボクらのカケラ。」
手の奥に、微かに本物の天の川が見える。
「...ねぇ、これは現実...?」
涙が止まらぬまま、そう投げかける。
今ならその触角も本物だって感じるんだ。
少女はゆっくり語る。
「......夢だと思えば夢のまま、現実だと思えば現実になるよ。君次第で何にでもなれるんだ。」
少女は続ける。
「ほら、私はここにいるからね。信じて。」
と言い、私の胸元に触れる。
我慢できなくなって、思わず抱きしめてしまう。暖かい。
少し戸惑いの動きが見られたが、抱き締め返してくれた。
それはまるで、そのまま溶け合っていきそうな感覚。
「ありがとう...本当に、ありがとう...」
私は救われた気持ちになった。
それと同時に、まどろみの中へ誘われるようなふわふわとした気分だった。
......ふと、今まで気づかなかった疑問がよぎる。
「ねぇ、名前は...」
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...寝てしまっていたようだ。
まだ空は暗い。
名前を聞く事が出来なかった。
横になっていた体を起こす。
胸に、温もりを感じる。
「...現実...か......」
......あの子とは、もう会えない。
何故かそう分かった。
夢を叶える。
今度は、何があっても叶える。
ただ1人、味方でいてくれたあの子のために。歌うんだ。
どんなものにでも彩りを与えられる不思議なあの子のように。絵を描くんだ。
ひとつひとつ違う味の飴が、大空で輝けるように。
この気持ちを届けるために。
だから目を逸らしたりしないでね。
この世で1番の七色に輝く世界を、「私が」作り上げるんだ。
だってあの子が教えてくれたんだ。
私は虹色のメロディを描けるんだから。
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ねぇ、私の夢を叶えてくれてありがとう。
ちゃんとここにいてくれてるってずっと分かってたよ。
私、幸せだよ......。
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